[主な登場人物]
由美子先生:
自称22歳、のハイパーボディを持つ謎の女教師。
時にはモジュラーケーブルをぶっこ抜く怪力を発揮する。
浩一くん:
純真な男子中学生。
由美子先生にいつもオモチャ(いろんな意味で)にされている。
ヨミ先生:
ハデスのグランドマスター。
だがこのお話には登場しない。
ボラスキニフ曹長:
ゾックのパイロット。
このキットには入っていません。
<<第1話 危機一髪!の巻>>
「浩一くん!浩一くん!!」
血相を変えてパソコンクラブの部室に入ってきたのは由美子先生(22才。ただし自称)。
「どうでもいいけど名前二回呼ぶのだけはやめてください」
「なんで?」
「個人的にとてもイヤなことを思い出すので…」
妙にリアルなことをボヤく浩一くんでしたが、由美子先生はそんな家庭の事情なんか知ったこっちゃありま
せん。
「新しいソフト手に入れてきたわよ!浩一くんが好きそうなやつ!」
「……またですか」
この学校のパソコンクラブは設立されて15年以上という、実はとても歴史のあるクラブなのですが、今現在部室にあるPCは、最新のものでもエプソンのPC-386だったりします。
しかし、その386はキーボードが数年来失われたままで、しかもFDドライブにはなぜか「ドラゴンナイト3」のディスクBが入って抜けない状態のまま放置されています。
そのため、このクラブで主に使用されているマシンはPC-8801mk2FRモデル20(5インチFDドライブ1基搭載)に、後からバルクのFDドライブを増設したマシンになっています。
しかもモニタはウィザードリィとテトリスの画面が焼きついていて非常に見づらいという、とても年代がかった代物。
今日びジャンク屋でももうちょっとマシなモニタが手に入る、と思わないでもない浩一くんですが、なにせ部費は顧問の由美子先生が勝手にゲーム購入にあててしまうため、買い替えもままなりません。
その由美子先生が買ってくるゲームが、いつも浩一くんの頭痛の種なのでした……。
「ほら!これ変なポーズでしょ!」
「って、なんで先生はそんなワケのわからないのをどこから手に入れてくるんですか?」
「いい女にはヒミツはつきものなのよ……」
浩一くんは由美子先生の言葉を素で流します。
「で、今回は何を買ってきたんですか?」
「コレよコレ!」
由美子先生が意気揚々と指差した先には、ボロボロののパッケージにパンツ脱がされそうになってる女子の絵が。
(……またかよ)
そうです。由美子先生はどこからかこういう昔のエロエロっぽいゲームを手に入れてきて、無理やり浩一くんにプレイさせるのです。
そしてその反応を見て愉しむ、という困った性癖をもっていたりするので、浩一くんはほとほと困っていたりします。
「『マリちゃん危機一髪』ぅ〜!? しかもコレ、テープ版じゃないですか!」」
今時の中学生なら、本当にカセットテープがPCの外部記憶メディアとして使われていたといっても冗談としか思わないでしょうが、浩一くんは違います。
なにせこのパソコンクラブの部室には、なぜかファミリーベーシックV3のフルキットが完動状態で保存されているからです。
浩一くんもこのクラブに入った時はびっくりしましたが、今じゃマリオを動かすくらいのプログラムは余裕で組めるようになりました。
そしてこのファミリーベーシックフルキットですが、カートリッジはもちろん、キーボードやRF端子にいたるまで、すべての配線が瞬間接着剤によって固定されていて、それ以外の使い途がありません。
その脇には「スタージャッカー」が刺さったままのSG-1000が放置されていたりしますが、これは動かないようです。
「データレコーダあったわよね?」
「ファミコンのやつならありますけど、あれ、接着剤でくっついてて取れないし」
「あー」
天を仰ぐ由美子先生でしたが、すぐにほかのアイデアを思いつきます。
「ケーブルはあるわよね?」
「ええ、この前由美子先生が持ってきたやつがまだあると思いますけど」
「じゃあ、視聴覚室行ってラジカセ借りてくる!」
そういうやいなや、由美子先生は部室を飛び出してしまいました。
「しかしこのパッケージ絵、しょっぱいなー」
思いっきり逃げるチャンスなのですが、浩一くんは父親が某エロゲ会社の社長で、義理の母がエロゲ声優という環境でゲームを刷り込まれているため、見知らぬエロなゲームを前にして興味津々です。
……このあたりを由美子先生につけこまれているわけですが。
「借りてきた!」
由美子先生が持ってきたのは、ごく普通のCDラジカセ。
「って、コレ使えるんですか?」
「当たり前じゃない! LINE OUTさえついていれば万事オッケーなのよ」
もう配線が完了したようです。このあたりの手際のよさはまだ由美子先生には全然叶いません。
「これでよし、と」
先生はBASICのコマンドを打ち込んだ後、ラジカセの再生ボタンを押します。するとFAXの受信音のような音がスピーカーから響きだしました。
「ちなみに、FAXの普及よりもこっちのが先なはずだから、その説明あんまり正しくないわね」
「……誰と話してんですか?」
地の文にツッコむ由美子先生に不審な表情を浮かべる浩一くん。
「まあ、ロードに時間かかるから待ってましょ」
そういって由美子先生はポケットから取り出した「パクパクマン」をプレイしはじめます。
(この前は「ツッパリカラス」だったのに……)
どう考えても22歳が詐称にしか思えないほど、古いゲームに対する造詣が深い由美子先生ですが、見かけは本当に20歳そこそこといっても十分通用するほど若かったりします。
「見かけだけじゃないわよ! ホントに22なの!!」
だから地の文にツッコまないでください。
由美子先生が「パクパクマン」に興じている間、浩一くんは持参のモバイルPC(このへんが現代の中学生風味)で、『マリちゃん危機一髪』について調査していました。
「へー、これって第1回エニックスホビーゲームコンテスト優秀賞なんだ……。『ドアドア』や『ポートピア連続殺人事件』と同じ時期かぁ」
そんなこんなしているうちに(由美子先生は「パクパクマン」をノーミスで4面クリア)、どうやらようやくロードが終わったようです。
「うわ! テープから人の声が!!」
「あははははは!!」
浩一くんのあまりの驚きかたに由美子先生大爆笑。
「予想通りのリアクションありがとう」
「先生!! 知ってたんなら教えてくださいよ」
「浩一くんのそのリアクションが見たかったからわざわざテープ版探してきたんじゃない」
やっぱり…、とため息をつく浩一くん。
「しかし描画遅いですねぇ」
「まあね」
「……このポーズはアリなんですか?」
「ぐわしよ、ぐわし。知ってる浩一くん?」
中学生の浩一くんは当然『まことちゃん』なんか知る由もありません。山咲トオルですら単なるオカマとしか思っていないのに、いわんや楳図かずおをや。
「知らないですけど知りたくもないです」
「あー、またそういう釣れないこという〜」
しなを作る由美子先生を無視して、浩一くんは画面の説明を読んでいます。
「これっていわゆる野球拳ってやつですか?」
「そうよ。5つのミニゲーム集みたいになってるけど」
「ということは、全部クリアするとマリちゃんが裸になるんですか?」
「浩一くんも好きねぇ〜」
「だって由美子先生こんなのしかもってこないじゃないですか!!」
「そうやって怒るところもか・わ・い・い」
こういう風にからかわれるのにも慣れているので、浩一くんは当然スルーです。
「いきなり包丁もった手が2本ですか……。殺伐としてますねぇ……」
「負けたほうが刺されるジャンケンよ。これぞデスゲームだわ!」
由美子先生は勝手に盛り上がっています。
「この変なポーズの女のために、そんな危険冒したくねーよ……」
そう思う浩一くんでしたが、由美子先生の前でこんなことを口にしたらどんな目に遭わされるかイヤというほど知っているので、別の話題でごまかします。
「じゃあ、これ負けるとマリちゃん死にますか?」
「死ぬわよ」
その答えを聞いて、俄然違うベクトルにやる気のでる浩一くん。ですが、こういうときに限ってジャンケンに連勝し、ゲーム1をクリアしてしまいました。
マリちゃんを刺そうとする男の手に、ぐっさり包丁が刺さって血が飛び散ります。
といっても定点からランダムの長さの赤い線が放射線状に表示されるだけですが。
「うわぁ。これ簡単なプログラムでできますけど、こういう見せ方されるとやっぱきついですねぇ」
「ス〜プラッピ〜♪ スプラッタ〜♪」
微妙に間違ってる上に「おかあさんといっしょ」ネタを織り交ぜてくるあたり、由美子先生侮りがたし。
「これ、もしかしてクリアするごとにテープから声出るんですか?」
「そうよ」
「そういう意味では凝ってますよね。今じゃこんな演出しても誰も驚かないですけど」
とりあえずゲーム1をクリアした浩一くんには、当然次の関門が待ち受けているのでした。
(中途半端につづく)
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