[主な登場人物]

由美子先生:
何の因果か落ちぶれて先生になってしまった、謎の女教師。
ぼやぼやしてると後ろからばっさりだ。どっちもどっちも!どっちもどっちも!!

浩一くん:
高校受験を控えて最近周りがピリピリしてきたのをひしひしと感じる男子中学生。
最近「銀河英雄伝説」を読み始めた。

エリザベス朱原:
「MISSNG PARTS」第4話「傷ついたテディベア」に登場する金髪碧眼の人妻(子持ち)。
最高にエロい。

LOVERS 〜恋に落ちたら…〜:
………一向に発売される気配がない。


前回までのあらすじ

ワイルド7another
では稲川淳二が本当に怪談話をしていた。


<<第5話 俺がハマーだ!の巻>>


いつものように放課後。
部室にいる浩一くんは珍しく自前のモバイルPCを使って、父の会社の新作「萌黄色」のテストプレイをやっていました。

「……つか、父さんも中学生にエロゲのチェックやらせるなよなぁ…」

一応マスターアップ後のチェックなので、特に問題もなくプレイできるようです。

「やっぱり誤字のチェックは漏れちゃうよなぁ……」

誤字を二、三見つけたところで部室の外に人の気配が。

「KISS KISS KISS お兄ちゃん〜♪」

妹なんだもん!」を歌いながらやってきたのはいつものとおりの由美子先生。

「あら、浩一くん何やってるの?」
「いや、父の仕事の手伝いです」

さすがに学校にエロゲを持ち込んでやっている、とは言いづらいので適当にお茶を濁して答える浩一くんでしたが、

「……浩一くんも好きねぇ」

なぜか頬を赤らめる由美子先生。

(……もしかして、バレてる!?)

友人たちには「パソコン関係の会社の社長」と説明すれば、それ以上つっこまれることはないですし、由美子先生にもまだこの話はしていないので知らないはずなのですが……。

浩一くんはぜんぜん知りませんが、実は浩一くんのお父さんと由美子先生は知り合いだったりするので完全にバレているのです。

それについては深く触れずに、由美子先生はまたどこからか仕入れてきたらしいゲームを白衣の中から取り出しました。

「忙しいところ悪いけど、今日はこれをやってもらいます」
「……こ、これは……!」

由美子先生が持ってきたのは伝説のロリータ三部作の二作目、「ロリータII 下校チェイス」でした。

おそらく一番知名度が高いであろう「ファイナルロリータ」でもなく、一作目の「ロリータ」でもなく「ロリータII」

このあたりのチョイスが、浩一くんの好奇心を(どちらかというとマイナスのほうへ)刺激します。

「なんでいきなり『ロリータII』なんですか?」
「やればわかります。はい、プレイスタート

「プレイスタート」は「ぱっぱらぱおーん」ぱおーんのマネなのですが、浩一くんはエコールの毒とは無縁なのでそんなことは知りません。

そうこうしているうちにタイトル画面が表示されました。

「これって普通のアドベンチャーなんですか?」
「そうよ」

画面左上に「HIT RETURN」の表示があったのでおとなしくリターンキーを押しましたが……。

「……なんですか、コレ!?」

唐突にテキストだけの表示になり「ENTER COMMAND : _」となっています。

「だから、コマンドを入力するのよ」
「……これ、ってもしかしてテキストオンリーのアドベンチャーなんですか?」

不安そうに尋ねる浩一くんに対し、由美子先生はこう答えました。

オンリーではないわ。オンリーでは」

由美子先生がこういう答え方をしたということは、ほぼテキストアドベンチャーなんだな、と浩一くんは勝手に解釈しました。

……その解釈は間違ってないのですが。

「これって英語入力なんですよね?」
「そうよ。でも中学生レベルの英単語で十分プレイできるはずだから」

このゲームでおそらく使用することが必須となるであろう「RAPE」という単語のどこが中学生レベルなのかと思う浩一くんでしたが、とりあえず黙ってプレイすることにします。

「とりあえず移動してみるか」

「N」と入力してみます。

「ススメマセン」とものすごくあっさり風味で拒否されます。

「じゃあ南に…」

ヒェェーーーーーーーーーーーーーッ! オボレルーーーーーーーッ!!
ブクブクブク・・・・・・


GAME OVER

サイスタート スルトキハ reset シテクダサイ


……いきなり死にました。

唐突な展開に唖然とする浩一くん。
まさか開始10秒でいきなり死ぬのは予想をはるかに超えていました。

「あー、だめよ浩一くん、きちんとまわりの状況を確認してから動かないと」
「って、そういうことは先にいってくださいよ!!」

とりあえずリセットして再起動です。

スタート地点で「LOOK」を実行すると「東と西に移動できて、何か落ちている」という情報を得られました。

「由美子先生?」
「なあに、浩一くん?」

さっきから「ネコドンドン」をプレイしている由美子先生は液晶画面に集中したまま生返事。

「これ、道に落ちてる何かを調べるにはどうしたらいいんですか?」
SEARCHを使えばいいのよ」

即答するあたりは、さすがは英語の先生、といったところでしょうか。
(この設定もほとんど死に設定ですが…)

「由美子先生!」
「なあに?」
「道、調べられないですよ!」
ROADのスペル間違えてるんじゃない?LじゃなくてRよ」
「あ」

N88−BASICに慣れてしまっているとどうしても「ROAD」より「LOAD」のほうが親しみ深いという事実を「ネコドンドン」に集中したまま見抜く由美子先生。
侮れません。

ロープが落ちていたのでとりあえず拾います。
することがなくなったので西に移動してみます。

……少女がいるようです。

ゲームの目的が目的ですから、さっき手に入れたばかりのロープを使って少女を捕まえます。

「つか『CATCH GIRL』でOKって、スゴイな……」

いとも簡単に拉致に成功しました。
このゲームの主人公、ロープでの緊縛術が達人なみのレベルのようです。

画面では何の感慨もなく「Ok」と表示されるだけなので、この淡々とした状況説明がかえって狂気の世界を思わせます。

さっそく「RAPE GIRL」と打ち込む浩一くんでしたが、

ココハ ミチノ マンナカ デスッ!

と、意外なキレられ方に唖然とします。

(道なかでの緊縛はオッケーでも本番プレイはダメなのかよ…)

よくわからない倫理基準に納得できない浩一くん。

「由美子先生!」
「女の子は袋小路に連れ込まないとダメよ。あとハンマー使って気絶させないと」

と、相変わらず「ネコドンドン」をプレイしながらとんでもないことをサラっと答える由美子先生。

ふと、ロープで緊縛したギャルを抱えたまま、ハンマーと袋小路を求めて彷徨う変態の姿が浩一くんの脳裏に浮かびました。

「……これって鬼畜ゲームだったのか、やっぱり」

にしても、完全にテキスト情報のみのアドベンチャーなので、マッピングが必須です。
かばんの中から方眼紙を取り出して、さっそくマッピングを開始する浩一くん。

「お、ハンマー発見」

後は袋小路を探すだけです。

袋小路を求めて移動中、「ケイカン ガ イマス」の表示に出くわしました。

「これってもしかして……」

アナタハ ケイカンニ トッツカマッテ ロウヤニ ブチコマレテシマイマシタ・・・

GAME OVER

サイスタート スルトキハ reset シテクダサイ


「……またかよ!!」


そりゃ、ロープで緊縛した少女を抱えてる変態が警察に見つかってただで済むわけがありません。

しかたなくリセットを押す浩一くん。

「……というか、これ先に完全なマッピングが必要だな」

いかな警察といえただの変態だからという理由では捕まらないので、浩一くんはまずすべてのものの位置を把握するためにひたすら移動しまくってマップを完成させました。

これですべてのアイテム、ギャル、袋小路、そして避けるべき警官の位置が明らかになりました。

ここまで完成すれば、アイテムゲット→ギャル拉致→袋小路のルーチンワークをこなすだけです。浩一くんの頭の中では既に完全クリアルートが出来上がっています。

この間も黙々と「ネコドンドン」をプレイし続ける由美子先生。

「まずひとり!」

このゲーム、1度使った袋小路には警官が現れるようになるので、2度は使えないので注意です。

「ふたつ!みっつ!!」

浩一くんはすでにギャルをリックドムかなんかと勘違いしはじめてるようです。

「ひとりで死ぬかよ〜 奴も奴も呼ぶ〜♪」

なんでここで「シャアが来る」なのかよくわかりませんが、浩一くんはどうやら完全に暗黒面に取り込まれてしまった模様。

「ななつ!」

そろそろ止めないとまずいと判断した由美子先生はおもむろに上着をはだけると、自分の胸に浩一くんの顔を押しつけます。

そのままゆっくり浩一くんが落ち着くのを待つ由美子先生。

「どう、大丈夫? 浩一くん?」

………………。

返事がありません。
あわてて胸から浩一くんを離して顔をみると、見事に白目をむいて失神しています。

「……チョ、チョークしちゃった?」

あまりにきつく抱きしめたため、浩一くんは酸素不足で失神してしまったようです。

「チャ〜ンス!!」

この状態ならマウストゥマウスの人工呼吸をしても誰にもあやしまれない!(上着はだけてる時点で十分あやしいですが)、そう踏んだ由美子先生はすかさず浩一くんの唇を奪おうとした、その刹那。

由美子先生はものすごい力で突き飛ばされてしまいました。

「動くなよ、 弾が外れるから!」

どうやら浩一くんには羽佐間道夫の生霊が降りてきてしまったようです。

そのまま大股で部室を出て行ってしまった浩一くんの後ろ姿を見送りながら、なぜかあふれる涙をとめることができない由美子先生がいました。

(オチもなく、つづく)


6話へ

インデックスへ戻る
もどる